ロイヤル・バレエ トリプル・ビル 11/17
たとえば大陸ヨーロッパのバレエ団と比べると、比較的保守的なレパートリーを保っているロイヤル・バレエ。今回珍しくコンテンポラリー/ネオクラシックの新作二作品を一挙上演、しかもいずれもイギリス人振付家の手になる・・・とあって、シーズン開幕前から関心を集めていたプログラム。チケット代を大幅に引き下げる作戦(トッププライスが37.5ポンド=約8,000円。ちなみにクラシック全幕はこの倍以上の値段)が奏功したか、大雨にもかからわず初日の金曜日、お客の入りは上々でした。

☆Chroma (世界初演)

Choreography: Wayne McGregor
Music: Joby Talbot, White Stripes arranged by Talbot
Set designs: John Pawson
Costume designs: Moritz Junge
Lighting: Lucy Carter

Cast: Alina Cojocaru, Federico Bonelli, Sarah Lamb, Edward Watson,
Tamara Rojo, Steven Mcrae, Ludovic Ondiviela, Lauren Cuthbertson,
Eric Underwood, Jonathan Watkins

MTV世代にもウケそうなスピード感とエッヂのある、なかなか面白い作品。舞台は全面真っ白、まばゆいほど明るい蛍光の白の空間で背景が長方形にくり抜かれている(ここはダーク)。ダンサー達は男女とも同じデザインのシンプルなスリップ型キャミソールを着用、色はグレーかミンク(一人だけダスティーなピンク)でなかなかシック。衣装だけでなく振付も男女の性差によるボーダーは明確ではなく、ユニセックスな印象。ややヒステリックながらもドライヴ感のある音楽にのせたメリハリの利いたダンスで、25分間を一気に見せる力のある作品。

ダンサーの中でダントツで印象に残っているのはアリーナ・コジョカル。彼女の抜群の身体能力の高さ--特に瞬発力と強靭なバネ--には瞠目させられました。生足のアリーナはすごく久しぶりに見たのだけど、あの小柄な細い身体は筋肉の塊ですね・・・ちょっとシルヴィ(・ギエム)を思い出してしまったほど。それと、彼女の踊りには他のダンサーにはない厳しさがあって、例えば一つ一つの動きにはっとさせられる緊迫感がこもっている・・・このストイシズムは、ちょっとロイヤルの他のダンサーにはない資質ではなかろうか・・・などと舞台を見ながらふと思ったり。(カーテンコールでもアリーナに一際大きな拍手が贈られていました。)


☆ The Four Temperaments

Choreography: George Balanchine
Music: Paul Hindemith
Staging: Nanette Glushak
Lighting: John B. Read

The 11th performance by the RB at the ROH

Cast: Viacheslav Samodurov, Darcey Bussell, Carlos Acosta,
Edward Watson, Marianela Nunez

ジョージ・バランシンの傑作・四つの気質(以下4Tと略す)。実はこの作品については多くを語ることができません・・・大好きなバランシン作品の一つなのだけれど、私にとっての4Tのデフォルトは3年前にパリオぺで見た舞台で、いまだにあの時に受けた衝撃は忘れられないし、あの舞台の呪縛から解放されていない状態なので。それぐらい、本当に、本当に凄いダンスの舞台だったのです・・・(で、サモドゥーロフの踊るMelancholicを見ながらヴィヴィッドに眼の前に浮かんで消えてくれないのが、この役を踊って凄絶なまでに美しかったローラン・イレールの姿。これ、振付・ポーズの一つ一つが、本当にイレールの個性にぴったりなのよね・・・・ここまで彼にぴったりハマるダンスはそうそうないし、逆にこの役にあれだけ生命を吹き込むことのできるダンサーが彼以外にそうそういるとは思えない・・・・)

ロイヤルの4Tは多分初見だったと思うのだけど、ざっくりした印象はピースフルというか自己完結的というか・・・言いかえればヌルマ湯的でスリルがない。スター・キャストは
Sanguinic(多血質・快活)を踊ったバッセル&アコスタ。華やかな二人のダイナミックかつ大胆な踊りには、単純に楽しませてもらえました。


☆DGV Danse à Grande Vitesse (世界初演)

Choreography: Christopher Wheeldon
Music: Michael Nyman MGV (Musique à Grande Vitesse)
Designs: Jean-Marc Puissant
Lighting: Jennifer Tipton

Cast: Leanne Benjamin, Edward Watson, Darcey Bussell, Gary Avis,
Marianela Nunez, Federico Bonelli, Zenaida Yanowsky, Eric Underwood

このミックス・プロで一番楽しみにしていたのがウィールドンのこの作品だったんだけど、期待外れ・・・タイトルのDGV(超最速のダンス)は音楽のMGV(超最速の音楽)からきていて、ひいてはTGV(超最速列車・そう、あのフランスの新幹線のこと)のもじり・・・と聞いて、センスいいなぁと内心盛り上がってたんだけどなあ 見る前は。

映画音楽の作曲家として有名なマイケル・ナイマンの音楽は、まさに列車が走るような・同じ速度で同じ方向に流れていくような曲想を持っている。言い換えると単調なメロディーとリズムが続く(途中ややトーンは変わるけどほとんど一本調子)。これが30分続くから催眠効果抜群で、私の座っていたローワー・アンフィには大いびきをかきながら眠りこけている人も・・・ ダンスの方は、超最速どころか普通に速くすらなくて、間延びした退屈な振付。男女ペアで踊るシーンが殆んどで、ちょっと普段お目にかかれないぐらいリフトを多用した振付なんだけど、これが音楽と全く噛み合っていない。これには驚いた・・・ウィールドンという人は、振付のインスピレーションは何よりもまず音楽、と常日頃よく語っているので、音楽性という点でこれほど外してくれるとは予想してなかったんだけど・・・一体どうしちゃったんだろう?それとも私は何か見逃したんだろうか・・・。

結局、三つの作品の中でまた再演されたら見てもいいかな・・・と思えたのはChromaだけかな?(DGVはちょっとツラいものがあるなぁ・・・)
2006-11-19 10:35 | ロイヤル・バレエ | Comment(5)
Comment
Naokoさん、詳細なるレポありがとうございます。私も初日を見てまいりました。Chromaのアリーナ、かっこよかったですねぇ。彼女のいつもの姫役とは180度違う側面を多いに楽しみました。腕も脚もあんなに細いのに全身これ筋肉で、身体能力に加えてエッジーな表現力にも目を見張りました。先日マスター・クラスを見る機会があって、アリーナが振付のマクレガー氏、共演のエドワード・ワトソンと意見を交わしながら作品を完成させて行く様子を楽しんだのですが、彼女が「私はそうは思わない」なんて蚊の泣くような小さな声でありながらしっかり自分の意見を述べる姿に、今やマリンスキーやパリオペからもラブ・コールのかかる大ダンサーの側面を見たのでした。

4Tはロイヤルらしくお行儀良くまとまってましたね。Naokoさんがメランコリーでローランを思い浮かべて悶絶してらっしゃるだろうと思いつつ、私もパリオペのダンサーがここかしこにちらついてヴァーチャルに別世界を漂ってしまいました...

DGVはねぇ...音楽だけ先走ってなんとも居心地の悪い思いをしました。セットも衣装もダンサーの人数も大仰な感じで、肝心の振りはまったく印象に残ってないです。私はストールズ・サークル後方で立って見ていたのですが、お隣のお兄ちゃんは手すりに頭を乗せて快眠なさっていました!立った観客をも眠らせるこの作品は凄いかも?!
Partita 2006/11/19(日) 20:22:54) 編集

意見って、割れるんですね。僕は、どちらの新作も非常に楽しみました。当初、初日のチケットを買いそびれていて、気付いた時には売り切れ。何度かリターンを求める電話をしていたら、ギリギリのタイミングでオーケストラ・ストールズの最前列を買うことが出来ました。
 贅沢なことを言いますが、オーケストラ・ストールズの最前列は、好きではありません。が、あの夜は、僕の中では何かが湧き起りました。
守屋 2006/11/19(日) 21:14:37) 編集

こんばんは。お二人ともあの雨の中、劇場にいらしてたのですね。

Partitaさん マスター・クラスの様子をお聞かせ頂き有難うございました。そうですか アリーナが蚊の泣くような声で・・・ お話を伺って、彼女がロイヤル移籍後初めて代役でソリスト役に抜擢された時にEvening Standardに載った記事を思い出しました。仕事の仕方が随分キエフと違うのでとまどいつつなんとか適応するよう努めている・・・というような話だったのですが、その中でES紙に、貴女は生真面目すぎ・レッスンをしすぎると一部の同僚から冗談半分に言われることがあるようですが・・・と水を向けられて、確かにそういうことを言う人はいるけれど、これが自分のやり方だから変えるつもりは全くない、と毅然と答えていたんですよね。

常連の年配のロシア婦人が、あんなエクササイズしてるだけでsoulのかけらもない作品を踊って何のためになるのかしら?と憤ってらっしゃいましたが、アリーナのようにまだまだ大きな潜在能力を秘めているダンサーにとって新しい振付との出会いはかけがえのない・貴重な経験になるはず・・・それだけでも新作を上演する意味はあると思いますね。

4Tは、あと10年ぐらい封印した方がよさそうです 私の場合(笑)。Partitaさんもパリオペがちらついちゃったんですか?2003年のパリオペのバランシン・プロ(どの作品も最高!だった)は映像にして出すべきですよね 後世のために・・・

立ったまま快眠ですか?・・・(絶句) まぁムリもないかも。あれはホントに眠気を誘う音楽でしたものねぇ。


守屋さん 2つの新作、両方とも楽しまれたようで何よりです!ストールズの前の方は確かに見づらいですよね でも舞台に吸い込まれるような感覚というか、舞台との一体感が持てるというメリットがありますよね。たまには前で見なければ・・・と思いつつ、私はいつもアンフィなのですが。

Naoko S 2006/11/20(月) 03:13:17) 編集

コジョカルのウルトラモダン・・・。興味深く拝読しました。

前回のバレフェスでは、組んだパートナーがいけなかったのか(^^;アンヘル・コレーラ)振付のひとつひとつがせわしなく見えてしまい、彼女の正確で豊かな音楽性を充分に検証できなかったのですが、今回のバレフェスではヨハン・コポーという同質の美点を持つダンサーと素晴らしいパートナーシップを持って彼女の持つ底知れぬポテンシャルを垣間見せてくれました。
音楽を聴いてそれに反応した動きをするのではなく、音楽と完璧にシンクロした流れるようでいて密度の高いムーブメントができる、というのが最大の魅力ですよね。
そんな彼女なら、物語バレエの叙情性のみならず、抽象的なモダン作品でも、作品自体のポテンシャルを引き出すような演技をしてくれるのでは・・・と思っていましたので、今回のNaoko様のレポで大きく頷いてしまいました。

わたくしは観てはいないのですが、特別プロのルグリとの「ジゼル」、ミルタ役を務めた東バの井脇幸江さんがご自分のHPで書いていらしたのが印象的でしたのでご紹介させてくださいませ。
彼女がアリーナに、ミルタの心情とその解釈に基づくジゼルとの絡みを提案し、それに対してアリーナも真剣に答えて、、という一幕がリハーサル時にあったそうなのですが、公演のあと、そのことをわざわざ井脇さんに感謝の言葉として伝えに来てくれたそう。

>「いつもは、あなたと全然違うタイプのミルタと演じることが多かったけど、あなたが自分の解釈を話してくれたことで、私も考え、舞台上で会話をすることで、新しい発見がたくさん出来た。ありがとう」と言ってくれたんです!助演するものとしては、最高の褒め言葉だと感じました。

舞台の上であんなにジゼルと(心で)会話するミルタを演じたのは初めてだったとも・・・。

コジョカルの人柄と姿勢がうかがえるエピソードですよね(^^)
maria 2006/11/21(火) 04:30:31) 編集

maria様

ちょっと前にこちらでアリーナとヨハンを特集したTV番組が放送されたのですが、その中で二人はお互いを"理想のパートナー!"と評していました。幸福なペアなのですよねぇ・・・そして今や人気・実力ともにロイヤルを代表するカップルです。今後も長いことロイヤルのゴールデン・ペアであり続けるのでしょうね・・・

ジゼルのお話、ご紹介頂き有難うございました。思わず井脇さんのサイトにお邪魔して、読んできちゃいました。うーんほんとにアリーナのお人柄とバレエにかける真摯な思いが伺えるエピソードで、ぐっときてしまいました。(井脇さんのミルタもさぞ素敵でしょうね・・・見てみたい!)素敵なお話を教えて頂き、重ねて感謝です☆
 
Naoko S 2006/11/21(火) 08:27:24) 編集

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