パリ・オペラ座バレエ 『リファール/マランダン』
見てからもう一週間たってしまったので、演目毎の雑感のみささっと・・・。(鑑賞日は10月15、16日)

●『白の組曲』 (振付:セルジュ・リファール/音楽:エドゥアール・ラロ<バレエ・
Namounaより> 初演1943年 パリオペラ座バレエ)

この演目、音楽がいいです。すごく気に入った。リュシアン・プティパ(マリウスの年上の兄)振付により1882年にパリオペラ座で初演されたニ幕ものバレエ・『ナムーナ』からの抜粋・転用だそうですが、序曲(かなり長い)の華麗なオーケストレーションにはワグナーのオペラを想起させられたほど。色彩感豊かでスケールの大きな序曲に続き、本編はとてもダンサブルでニュアンスに富んだスコア。

そして、両日ともこの作品でパリオペ管が未だかつてないほどいい音を奏でてくれて大感激!15日は3階(3eme)サイドの最前列という音楽を聴くには好位置に座っていたせいもあり、序曲の音のあまりの美しさに身を乗り出してオケをまじまじと覗き込んでしまった。パリオペのバレエ公演でこんなに素晴らしい演奏を聴いたのは久しぶりで、もうこの序曲だけでかなり満足してしまった私。

この演奏の素晴らしさに比べると、肝心の踊りの方はどうもイマイチ。15、16日は第三、四キャスト(?)でエトワールがそれぞれ3人しかいない頼りない布陣だったせいもあるかもしれないけれど、どうにも脆弱なパフォーマンスで純粋なダンス作品を見る醍醐味を味わわせてもらえず。

壮麗・優美なデフィレの続きのように、全身白ずくめのソリスト・ダンサー達が次々舞台に上がって技の競演を繰り広げるこの作品、観客として期待するのはただ一つ。スターダンサー達の技とオーラにただひたすらKOされ・めくるめく陶酔に身を委ねたい・・・それだけなのです。次から次によくもまぁこれだけの才能と美貌を持ったダンサーを揃えられるものだ・・・と、ただひたすらに圧倒されたいだけ。そういう怠惰かつ単純な観客の目にはこのキャストのダンス力(特に女性陣)は相当物足りなかった。

で、15日は途中まですこぶる欲求不満状態で見ていた私を救ってくれたのがジャン=ギー(マズルカ)。そうそう、これ、これが見たかったのー!と叫び声をあげたくなるぐらい、ツボにジャストミートのパフォーマンス。格の違いというか、一つ一つのポーズ、パが完璧な美しさと調和を持った優美な踊り。彼がすることはひたすらスムーズで力みがなく、趣味が良く、優雅。嬉しいことに両日登場したソリストの中で(当然だけど)ジャン=ギーに対する拍手とブラヴォが格別に多かったです。そりゃそうよね 誰が見てもわかるわよね あの違い・・・(見ていてつくづく思ったのは、ジャン=ギーってすごい完璧主義者なんだなぁ・・・と。最近ではめっきり登場回数が減っているけれど、踊るときはいつも・例外なく 完璧だもの・・・)

ゲンキンなもので、彼のパフォーマンスを見て満足感と落ち着きを得た後は、マチューとオスタのアダージョもなかなかに美しく見えたし、メラニーのフルートも趣味の良さが滲み出るたおやかなダンスで楽しめた。(もう少しテクニックが強くなるといいのになぁ彼女は・・・メラニーはこの夜の女性陣の中でもっとも古典的なバレリーナの美質を持つダンサーに見えました)。もう、ほんとに、ジャン=ギ=に救われ・感謝のブラヴォーを叫び続けた15日の白の組曲。

16日はお気に入りのファニー・フィアットがパ・ド・サンクに登場して相変わらず手堅く優雅な踊りを披露してくれたけど、全体には15日より更に低調で、終わって思わず、「ジャン=ギーが必要だわ・・・」と呟いてしまった。

この作品、前回見たときはこんなじゃなかった記憶があるのだけど、フィナーレはシンフォニーInCの最終場面のようなソリストの競演。次々押し寄せる波のような興奮を味わうには至らず、つくづく、これはどうしても第一キャストで見たかった・・・と悔やむことしきり。次回は絶対に、「オールスターキャスト」で見たい(見ねばならない)演目。


●新作・世界初演 『イカルスの飛翔』(振付:ティエリー・マランダン/音楽:アルフレッド・シュニトケ 「ピアノと弦楽のための協奏曲」)

1940年代のリファール作品にサンドイッチされたコンテンポラリー作品。イカルスの物語をベースに振付家が着想をふくらませたリブレットによるらしいのだが、意味不明だった。ダンサーは、イカルス(バンジャマン・ペッシュ)と彼の運命を導く女性?(ノルウェン・ダニエル(15日)/メラニー・ユレル(16日))がメインで、コール・ドは男女各6人ずつ登場。主役イカルスのソロに多少見所がある以外は幼児の遊戯のような振付が続いて、ダンス自体に面白さは感じられず。全体にダークで静謐な演出、おもに緊迫感あるシュニトケの楽曲のせいで、「なんとなく雰囲気はそれなりにあるっぽい」と感じさせる、ありがちなコンテンポラリー作品。

この種の作品を見る目のない私が言うのも何だけど、「ないないずくし」の作品としか思えず、非常に退屈した。(美しくもなく、醜くもなく、面白くもなく、新しくもなく、刺激的でもなく・・・) 英批評家が、「すばらしく理解不能の作品」と書いていたけれど、全く同感。個人的には将来何十年にも渡ってバレエ団のレパートリーに残っていく作品とは到底思えないなあ・・・。

両日ともバンジャマンの熱演ぶりは凄まじく、その姿には感心しました。あと、メラニーがよかった。6月にマロリーの作品を踊る姿を見たときも感じたのだけど、彼女はこの種のクールで抽象的な作品が意外によく似合う。


●『ミラージュ』 (振付:セルジュ・リファール/音楽:アンリ・ソーゲ 初演1947年 パリオペラ座バレエ)

面白いことにキャスト違いで印象ががらっと変わった作品。15日はファースト・キャストのジロ&ル・リッシュ、16日はセカンド・キャストのレテステュ&モローで見た。

私的には、サポートキャストも含めてセカンドの方がずっと好みに合った。15日に見た時は、リブレットも演出も非常に古臭くて(衣装の趣味の悪さは犯罪もの!)かろうじて振付に救われている・・・という印象だったのだけど、翌日見たら(多少慣れたせいもあってか?)その古臭さがあまり気にならず・・・むしろ現代的な解釈で古き時代のエレガンスを蘇らせてくれたような、そんな力が16日の舞台にはあった。

アニエス&エルヴェ組の最大の強みは、二人のシュールなルックスにあったかもしれない。このペアはスレンダーで華奢なラインを共有していて、俗世から遠くかけ離れた存在に見える。二人がシンクロして踊るシーンは非現実的な美しさで、ミラージュ・・・まさに幻影を見ているような、ごく自然に非日常の世界に誘ってくれた。(で、作品の荒唐無稽さが気にならなくなった。)

アニエスはクールでミステリアスな「影」の役がぴったり(あの髪型とロングドレスもとてもお似合い)。テクニック、表現とも際立って質の高いパフォーマンスを見せてくれて、これぞパリのエトワールのclass act! とうならせてくれた。エルヴェも、彼を見ているだけで「これは夢の物語・・・」と瞬時に納得させてくれる希少な個性を存分に活かした好演で、後半若干息切れしたかに見えたけれど彼の美意識がしっかりと感じられる踊りに文句なし。

この他、大人の表現力で前日のコゼットを大きく引き離していたリケ(La Lune)、なまめかしく誘惑的なシオラヴォラ(La Femme)・・・ これぞパリオペ!と、パリならではの大人の魅力に溢れる舞台を堪能した。
2006-10-25 08:15 | パリ・オペラ座バレエ | Comment(0)
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