RO 「マティルデ・ディ・シャブラン」(10/23)
待ちに待った、ロイヤル・オペラ新シーズン最大の話題作、初日に見てきました。イギリスのoperagoers(プロも含め)に絶大な人気を誇るファン・ディエゴ・フローレスが十八番のロッシーニ・ロールで登場とあって、注目の的は断然彼だったわけですが、蓋を開けてみると、私的には・・・・

祝・カサロヴァ様、ロイヤル・オペラ復活~!(Brava Brava Brava~~!!!)

と、雄叫びをあげたくなる・大コーフンの夜と相成ったのでした~。

・・・いやいやいや、ほんとに凄かったです ヴェッセリーナ・カサロヴァ。彼女の役どころは主役の暴君・コッラディーノ(フローレス)の政敵・ライモンド・ロペスの息子で、囚われ人として屈辱の日々を送る、誇り高き騎士・エドアルド。

一幕、エドアルドが両腕を鎖(の代わりの布切れ)でつながれ・兵士達に連行されて舞台に姿を現すシーン。全身から強烈な舞台人オーラを発している、カサロヴァの孤高の佇まいに、まずははっと目を惹き付けられる。そして彼女が第一声をあげるや、瞬時に舞台にピッキーーーーンと緊迫感が走り、それまでのややヌルい空気が吹っ飛んでいくのを肌で感じる。<あぁぁ なにやら凄いことが起こりそうだ・・・>

自分への服従を強いるコッラディーノに、"貴様のような輩には軽蔑の念しか持ち合わせていない!"と、鬱屈した心情を吐露する苦悩のアリア。陰影に富んだ表現(明暗のコントラスト、低音のほの暗い熱情・・・ゾクゾクする!)に加え、完璧なコントロール力。何よりも、舞台登場直後にここまで役に入り込める集中力の凄さに、圧倒される。(あまりにも、クオリティが・・・違いすぎ!!彼女のアリアが終わると当然客席から熱狂的な拍手とブラヴォーが。私はあまりに興奮して日本語でなにやら恥ずかしいことを口走っていたようで、隣席の友人にたしなめられてしまった・・・トホホ。周囲に日本人らしきお客さんがいなくてよかった・・・!)

ああ凄い、凄すぎる・・・。エドアルドが舞台から姿を消すと、続いて女主人公のマティルデが登場。コッラディーノの侍医・アリプラントと軽妙なやりとりを交わすシーンなのだけど、カサロヴァの残像が強烈すぎて、最早何も目に入らず・耳に届かず・・・しばし放心状態。"エドアルド、カムバ~~~ック!!”と心中虚しく叫びながら、眼下で繰り広げられる滑稽劇をかろうじて目の端でキャッチ。

で、お待ちかね・二幕のエドアルドのアリアは導入部がホルンの独奏になってるんだけど、これがなんとも頼りない・フラフラした音で、"げっ これでカサロヴァ様の伴奏がつとまるのかっ"とハラハラ・ドキドキ。エドアルドの歌唱がホルンとの掛け合いのような形で進行していくんだけど、カサロヴァの歌に一幕ほどの衝撃がなかったのは、ホルンがしょぼい音を出したせいだ~~!と、オケピに飛び込んで戦犯の首を絞めてやりたい衝動にかられる。

このアリア、縄を解かれたエドアルドが、父・ライモンドとコッラディーノが剣を交える戦場に駆けつけ、父は戦死したと思い込み悲嘆するシーンで歌われるので、ヒロイズムに溢れたカサロヴァの表現は、"正解"ではあったのだけど・・・。が、しかし、それにしても。

明らかに、彼女の存在は周囲から浮きまくっていた。(多分他の歌手がこの役をやっていたら、"フツーにシリアス"程度の、無難な表現に終わるのではなかろうか・・・)

そもそもこのオペラ、日本語版Wikipediaで解説を読むと、ジャンルとしては"semi-seria"となっているんだけど、多少は演出のせいもあるのかもしれないけど、私の目には、どう見てもbuffa。リブレットなんて相当おちゃらけた・軽めのテイスト、エドアルドとライモンドが登場するシーンだけはシリアス・ムードなんだけど・・・。で、カサロヴァ@エドアルドはこの予定調和的・お気楽なパーティーの中にあってあまりに異質で、ある意味プロダクションの雰囲気をブチ壊していた・・・とも言える。内的ユニバースとでもいうか、確立された自分だけの美の世界をもっている彼女、きっとどんな役柄を・どんなプロダクションで演じていようとも、まごうことなきその独特の個性が滲み出て、おそるべき侵食作用を発揮してしまうのであろう・・・そんな風に見えた。

・・・ううう素晴らしい~~。私はこういうことのできる芸術家(グルベローヴァの系譜を継ぎ・ロパートキナに通じるものがある)に滅法弱いので、もうもう骨抜き・腰砕け状態でありました・・・。(それと、私カサロヴァのルックスも大好きなのですよね~♪凛々しくて、カッコいい!お顔立ちは、なんとロパートキナに《ちょっぴり》似ているのですよん。)

ああ~止まらないカサロヴァ賛歌。でもでも、紙数が尽きる前に、この日の「主役」お二人についても語らねばなりませぬ。

「血に飢えた戦争好きの非情な領主で、大の女嫌い」のコッラディーノを演じたフローレスは、登場シーンでは、闖入者・イシドーロを威嚇する"暴君"の姿が違和感ありまくりで、笑えた・・・。あのリリカルなテナー・ボイスで、物騒なセリフを口にされてもねぇ・・・。怖くもなければ迫力もないし、"若、ご乱心~~"(「殿」じゃないのよ・笑)ぐらいのもんで。一幕前半は総じてやや低調、後半から徐々にエンジンかかり始め、二幕は声に艶が出て伸びやかな歌唱を聴かせてくれて、よかったです。(コッラディーノ役には超難技を駆使するアリアがあって、現在フローレスしか歌える歌手はいない、と言われてるのですが、肝心のこのアリアがどこででてきたのかわからなかった、ボケの私・・・。おそらくフローレスが難しさを感じさせることなく、スムーズなパフォーマンスを披露してくれたことの証左であろう、と思ってますが・・・はは。)暴君というよりほとんどバカ殿(若!)とみえるような滑稽な演技を要求されるシーンもあったけど、ちゃんとこなしていて偉いな~と感心。マティルデの手練手管の前にアッサリ・コロリと落ちて、「恋の病」にかかって戸惑っているときの演技がなんともいえずに可愛らしくて自然で、やっぱりこの人には一途で純粋な表現が似合うわ・・・と再認識。

タイトル・ロールを演じたのは、ポーランド出身のソプラノ、アレクサンドラ・クルザック。この方これまで聴いたことがあったかどうか、まるで思い出せないのですが、目が覚めるような素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。特に二幕のハイライト、コロラトゥーラを駆使したマティルデ役の見せ場のアリアが、お見事としかいいようのない出来。マティルデは自信満々で策士で、でもオープンな心の持ち主で女っぽい魅力に溢れている。そんな主人公を茶目っ気たっぷりに演じて、ステージプレゼンスでフローレスにひけをとっていなかったのも立派。彼女はこの夜カーテンコールで最も盛んな拍手を浴びていたけど、それも至極納得の出来。(ところでこの方、ちょっと見た目がナターリヤ・オーシポワに似てました・・・)

「マティルデ・ディ・シャブラン」、作品自体はロンドンでの上演が150年以上なかったことも頷けるB級作品だったけど(ストーリーのアホらしさ加減に至っては、わざわざ紹介する気も起きない・・・)、この三人の歌を聴くだけでも万難を排して駆けつける価値があります!迷ってる方は、リターンをゲットして、go~~!!

The Royal Opera "Matilde di Shabran"
 ~ossia Bellezza, e cuor di ferro

Music: Gioachino Rossini

Libretto: Jacopo Ferretti after a libretto by Francois-Benoit Hoffmann
for Mehul's Euphrosine, and J.M. Boutet de Monvel's Play Mathilde

Conductor: Carlo Rizzi

Director: Mario Martone

Set Designs: Sergio Tramonti

Costume Designs: Ursula Patzak

Lighting: Pasquale Mari

《Cast》

Matilde di Shabran: Aleksandra Kurzak

Corradino: Juan Diego Flórez

Raimondo Lopez: Mark Beesley

Edoardo: Vesselina Kasarova

Aliprando: Marco Vinco

Isidoro: Alfonso Antoniozzi

Contessa d'Arco: Enkelejda Shkosa

Ginardo: Carlo Lepore

Egoldo: Robert Anthony Gardiner

Rodrigo: Bryan Secombe

**The 3rd performance at the ROH**
2008-10-27 08:25 | オペラ | Comment(8)
Comment
かっこいいカサロヴァに可愛いJDFですかぁ・・・。ふふ、ますます面白そうですね。カサロヴァは来年前半に、藤原歌劇団「カルメン(演奏会形式)」と新国立劇場「チェネレントラ」で2度も来日してくれるのですよ。
ミッツィカスパー 2008/10/28(火) 19:36:34) 編集

Naokoさま、OPERAシーズン幕開けのドラマチックなレポ、ありがとうございました。
確かにカサロヴァ様(様、ですわねv)ロパートキナに似ていらっしゃるかも・・・。
素晴らしいパフォーマンスを楽しまれたご様子、一緒にワクワクしながら鑑賞しているかのような気分で読了いたしました。
そうですか・・・カサロヴァ様絶好調のようですね。
実は来年3月の演奏会形式の「カルメン」のチケット発売が11月の中旬にあり、「カルメン」はフルの舞台でみたいわたくしとしては迷うところだったのですが、Naoko様のこのレポでちょっと本気を出してチケット奪取作戦を考えなくては・・・という気になって参りました!
maria 2008/10/29(水) 04:25:58) 編集


ミッツイカスパーさん、グル様同様カサロヴァも日本がお気に入りみたいですね。『日本の聴衆は特別(独特)』と発言されている英文インタビューを目にしました。彼女は日本人が好きなタイプのアーティストではないかと思うので、相思相愛なのかなあ~ 東京が羨ましい・・・。

ところで、私は31日にまた行くことにしました!ミッツイカスパーさんとはROHでも"シアター"違いですが、お互いに楽しみましょうね~。(ロンドンは今かなり寒いですので、防寒対策バッチリしてきてくださいね~)


mariaさん、毎度しよーもないミーハー・レポですが、マティルデ~の初日、ちょこっとでもヴァーチャル体験して頂けたなら、嬉しいですv

>>来年3月の演奏会形式の「カルメン」

週末来"カサロヴァ・サーチ"に没頭していて(笑)、この情報が目にとまりました。私的には、カルメンにはイメージがまるで・・・合わない!という先入観があったのですが、YouTubeなどで抜粋ビデオを見て(彼女のビデオ、かなりの数投稿されてます)、・・・"やはり"という感じでした(笑)。彼女ならではの大変個性的なカルメンで興味はそそられるんですが・・・私的には、カサロヴァはなんといってもズボン役で聴きたい歌手なのですわ~~。(maria様もお時間に余裕があるときにでも覗いてみてくださいませ・・・)
Naoko S 2008/10/29(水) 09:44:22) 編集

このコメントは管理人のみ閲覧できます
- 2008/10/29(水) 14:57:58) 編集

おはようございます。冬時間になったからって、すぐに真冬にならなくてもいいのに、と。

 27日に観てきました。僕はもともとロイヤルの金管は全く評価していませんが、当夜もへろへろでしたよ。あれは、どうにかして欲しいです。ロイヤル・バレエ・シンフェニエッタの金管のほうがずっと上手だと思います。

 僕は、第一幕最後にある、無伴奏による7重唱の旋律の美しさ、繊細さに涙がでました。31日、楽しみです。この寒さで、歌手の皆さんが風邪などひきませんように。
守屋 2008/10/29(水) 15:41:31) 編集


>>冬時間になったからって、すぐに真冬にならなくてもいいのに、と。

まったくですね~ 昨日は北ロンドン(ハムステッド周辺)では雪がちらついたとか!ロンドンで10月に雪が降ったのは、1832年以来だそうですが。

金管、二日目もダメでしたか・・・金曜はもうちょっとなんとかしてほしいですね(守屋さんもいらっしゃるんですね~)。

>>僕は、第一幕最後にある、無伴奏による7重唱の旋律の美しさ、繊細さに涙がでました。

このオペラ、アンサンブルの歌唱にはっとさせられる場面が何度かでてきますね。やはりこれもこの布陣ならでは・・・ということでしょうか。
Naoko S 2008/10/30(木) 10:40:22) 編集

Naokoさん、お久しぶりです。

月曜日に見てきました。まったく同感です、カサロヴァは
素晴らしいですね!

話はとびますが、12月16日のキャラクター・ダンサーの
イベントはチケット取れませんでした、残念。

今月はロットバルトに『マノン』の看守と立て続けに
エイヴィス様の名演にふれる機会があり、ラッキーでした。
その直後にStrictly Come Dancingでダーシー・バッセルの
パートナーとして踊っているのをみつけて不思議な気持ちでした。
だって、もうほんっとに憎たらしい看守だったんですよ。
笑顔でダーシーのサポートをする彼はとても素敵な紳士でした。。。

月曜日のロイヤルオペラは暖房がまったく入っていなかったのか
激寒でした。金曜日はどうぞ暖かくしておでかけくださいねー。
なんてことを言ったら今度は暑かったりするでしょうか?

それではまた!



とと 2008/10/30(木) 23:32:28) 編集


ととさん こんにちは、毎日寒いですね~。

>>月曜日に見てきました。まったく同感です、カサロヴァは素晴らしいですね!

わ~い ととさんもカサロヴァに魅了されたのですねv 月曜も好調だったようで、心強いですわ。(私は明日も見に行くのですよ 楽しみ~!) 

>>話はとびますが、12月16日のキャラクター・ダンサーのイベントはチケット取れませんでした、残念。

ええーっ取れなかったんですか!なんとまぁ・・・。でも、クリスマス前の繁忙期かつ休暇シーズンでもあるし、直前リターンが出るかもしれませんよ 諦めずにトライしてみてくださいませ。

さて、ギャリーですが、シーズン開幕早々フル稼動されてるみたいですね~。(しっかりフォローされてるととさん、素晴らしい~!)

>>Strictly Come Dancingでダーシー・バッセルのパートナーとして踊っているのをみつけて不思議な気持ちでした。

私この番組見逃しました・・・。一度もちゃんと見たことないんですけど、これって国民的人気TV番組ですよね?いよいよギャリーも全国区・メジャー市場進出でしょーか?笑(しかし、彼ってほんとにオールマイティーですねえ・・・)

>>月曜日のロイヤルオペラは暖房がまったく入っていなかったのか激寒でした。

誤って冷房入れちゃった・・・とか?(ありうる・・・)

>>なんてことを言ったら今度は暑かったりするでしょうか?

・・・そんな気がします(笑)。
Naoko S 2008/10/31(金) 10:06:49) 編集

コメントを書く
#

管理者にだけ表示
06
--
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
--
>>
<<
--