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マリインスキー・バレエ 『黄金時代』 (2006年7月29日、ロンドン・コロシアムにて)
既に1ヶ月たってしまいましたが・・・ショスタコーヴィチ・フェスの締めくくりは、去る6月に本拠地でプレミエ上演されたばかりの「新作」・黄金時代。観終わって、なんとも不思議な余韻を残す作品でした。
“The Golden Age” (Ballet in three acts, Op.22)

Music: Dmitry Shostakovich
Libretto: Konstantin Uchitel
Choreography: Noah D. Gelber
Stage Directors: Noah D. Gelber and Andrey Prikotyenko
Conductor and Music Director: Tugan Sokhiev
Set: Zinovy Margolin
Costume: Tatiana Noginova

World premier: 27 October 1930, Leningrad State Academic (Kirov/Mariinsky) Theatre, Leningrad
Premier of this production: 28 June 2005, Mariinksy Theatre, St. Petersburg

CAST
Old Sophie: Gabriella Komleva
Old Alexander: Sergey Berezhnoy
Sophie: Daria Pavlenko
Alexander: Alexander Sergeev
Vladimir, Alexander's friend: Anton Pimonov
Heinrich, Sophie's friend: Maxim Khrebtov
Olga, a film star: Tatyana Tkachenko
Mr. von Klein: Andrey Ivanov
Mrs. Von Klein: Alisa Sokolova

この公演を見た後かなり長いこと頭から離れなかった旋律・・・それは実はショスタコーヴィチのものではなくて、往年のスタンダード・ナンバー ”Tea for Two”・・・ドリス・デイで有名な、あの曲です。ショスタコーヴィチはこのバレエ音楽の中に(当時の政情からすると大胆にも)彼流に味付けしたジャズ風のチューンを沢山盛り込んでいるんだけど、この曲は殆ど原型のまま、作品の主人公・ソフィーとアレクサンドルの「ノスタルジー」をあらわすライトモチーフのように使われていて、全幕中繰り返し登場する。

ソフィーとアレクサンドル、今は年老いた二人はかつて政治体制の違いを越えて魅かれ合った仲。70年(!)の時を経て偶然の再会を果たした二人に、過去の思い出が走馬灯のように駆け巡る。初めての出会い、ミュージックホール、サッカー試合、戦争と離別・・・二人が過去を振り返る導入シーンで必ずこの曲の旋律が軽やかにあらわれて、ひたすらに甘く、昔にタイムスリップする二人の心情を描く。

この「甘さ」と「ノスタルジー」がそのまま一度だけ見たこの作品の印象として残っている。「二人でお茶を」の歌詞そのままの、ほとんどベタベタ・・・といっていい甘さ。(注:この作品で使われている曲はインストゥルメンタルです)この手の甘さと感傷性が嫌いでない、どころかかなり好きな私にとっては、ノスタルジー全開の懐古シーンがこの作品の中で一番好きだったし、心に残った。(ついでに大胆な自説を書いてしまうけど、この懐古趣味と感傷性は振付・演出家のゲルバー氏がニューヨーカーだということと無縁ではないのではなかろうか。この感傷性、若い頃さんざん読んだニューヨーカーの作家の小説をふと思い出したりした。)往年のマリインスキー劇場のスター・ダンサーが演じる老ソフィーとアレクサンドルがこの曲にのって軽快に、甘いムードで踊り、またかつての思いを確かめ合う・・・始めと終わりのタブローでは二人に注がれた振付家の暖かい視線が感じられてちょっとぐっときてしまった。

甘い・・・といえば、二人の出会いのシーンも優しいムード一杯。サッカーの国際試合のためソ連から西欧の都市に到着したアレクサンドルが、スタジアム近くの公園で子供達に体操を教えるソフィーに出会う。子供と一緒になって見よう見まねで体操選手・ソフィーの動きを模倣しようとするアレクサンドルだが、開脚はできないし脚は上がらないし・・・それをソフィーが押したり引いたりして助けてあげて、子供達がそれを笑いながら見ている・・・・と、なんとも甘ったるいシーンだけど、素朴で無邪気で優しくて・・・妙に印象に残っている(パヴレンコがいとも甘やかで魅力的だったお陰もあるけれど)。

ソフィーとアレクサンドルのpddも甘さが一杯。夢見がちで幸福感に溢れていてどことなく「シンデレラ」を思わせるダンスで悪くなかった。全幕中振付・演出共に一番完成度が高いと思えたのは、大戦が勃発し捕虜となったアレクサンドルと友人(チームメイト)・ウラジーミルの苦境のシーン。仲間が次々と倒れる中、遂にウラジーミルもアレクサンドルの「腕の中で」息絶えるのだが、ここでの二人の男性ダンサーのpddはネオクラシカルの力強い振付で、感情が最もストレートに発露したダンスで白眉だった。アレクサンドル役の若いコール・ド・ダンサー セルゲーエフはそれまでは今ひとつ印象が薄かったのだが、ここでしなやかでエモーショナルな踊りを披露してくれて、目の醒める思いだった。(死の間際にウラジーミルがアレクサンドルに口づけしたらしいのだが私は見逃した・・・UKサイトであるレビューワーが「このシーンでウラジーミルがアレクサンドルを愛していたことがわかった」と書いていたのですが。そうであればここが全幕中でもっともドラマティックな場面だったのも不思議はない・・・)

ダンサーの中では、なんといっても若いソフィー役を踊ったダリヤ・パヴレンコの素晴らしさが忘れられない。この夜の彼女は何から何まですべて好きでした・・・どことなくレトロな雰囲気のある彼女に30年代のファッションや清楚で優しい乙女の役がぴったり。踊りはもちろんこの上なく美しく、品格と折り目正しい古典バレリーナの華をもったダンサーを見る喜びを堪能させてもらいました。パヴレンコとセルゲーエフは確か第三キャストで、当初は初演者の若手ダンサーが踊る予定だったのだけど、結局全公演(3回とも)この二人が登板。多分若手ダンサーたちで見ていたらかなり印象がかわっていたのでは・・・という気がするので、私としてはパヴレンコでこの作品を見ることが出来て本当に良かった・・・と感謝の念で一杯。

・・・以上はこの作品で好きだった点。問題も多々あって・・・。まず振付の弱点は群集処理が致命的に下手なこと。ミュージックホールのシーンではズラリと居並んだコール・ドが手持ちぶさたに舞台をウロウロ(勿体ない!)。サッカーのシーン(2回もでてくる!)でも大量に投入されたコール・ド(1チーム16人位いた!)に与えられた動きが・・・跳んで・回って・やたら運動量は多く、フーガのように反復した動きなのだけれど、これがまあ、見事なまでにスリリングでも美しくもない・・・このシーン、長いだけにかなり退屈してしまった。(そうそう興味深いことに振付家のゲルバー氏、フォーサイスのアシスタントをしていた人なのに、フォーサイス的な動きや振りはほとんど見当たらず・・・裏返せば彼がやりたいことはフォーサイス風のダンスではないのでしょうね。ballet.coのインタビューでこんなコメントをされていますが・・・「ムーヴメントのためのムーヴメントを創る気はない・・・筋書きのない作品でも必ず背後に<物語>がある作品を創っている。」)

演出面は、個々のアイデアはなかなかいいと思ったし、そのプレゼン方法も決して悪くないのだけど、いかんせん見る前から散々聞かされていた「急ごしらえ」のアラが目立つし、何より作品に統一感が欠けていて(いくつかのタブローの寄せ集め的に見えてしまう)、全体に脆弱な印象が否めない。(演出面で印象に残っているのは・・・ 話の筋を知らない観客への配慮か?冒頭、舞台上のスクリーンに次々とモノクロの古い写真や新聞記事が映し出されて、現在から過去を振り返っているんですよ・・・と、作品の設定がわかる仕掛け。この辺のお節介さというかわかりやすさはアメリカ的かな・・・と思ったけど、親切という意味では悪くはない。批評家にはウケが悪かったけど・・・。それから大不評だったのがフィナーレの演出。老ソフィーとアレクサンドルが将来を分かち合うことを示唆するハッピーなタブローが暗転すると、オケが威勢のいいエンディングの楽曲を演奏している間中舞台上にはショスタコーヴィチの写真が一枚置かれているのみ・・・フィナーレの場面でついに息切れしてネタが尽きてしまったのか?この幕切れはいただけなかった。)

今回のロンドン初演では、多くの批評家・ファンからほとんど袋叩きと言っていいぐらい酷評を浴びていたけれど、個人的には好きな部分も沢山あったし、それほどひどい作品とは思わなかった。(正直言ってあの酷評の数々はちょっと理解に苦しむ・・・) おそらく、若い世代でショスタコーヴィチやバレエに思い入れのない観客(偏見のない観客)ならゲルバーのある種のサービス精神はアピールしただろうし、もっと受け入れられたのではないかと思われるのだが・・・。
2006-08-29 06:00 | マリインスキー・バレエ | Comment(0)
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