ダーシー・バッセルの引退公演@サドラーズ・ウエルス劇場(5/16)
ダンス公演としては'最速’のソールド・アウト記録をつくったといわれている、ダーシーのフェアウェル公演。2日目の夜に行って来ました。

☆”On Classicism”(タケット): ダーシー・バッセル、ウィリアム・トレヴィット

☆“In the Middle Somewhat Elevated”(フォーサイス): ダーシー・バッセル、ロベルト・ボッレ

☆“Tryst”(ウィールドン):  ダーシー・バッセル、ジョナサン・コープ

☆“Sylvia pdd”(アシュトン): ダーシー・バッセル、ロベルト・ボッレ

☆“Winter Dreams”(マクミラン):
マーシャ: ダーシー・バッセル
ヴェルシーニン中佐: ロベルト・ボッレ
クルイギン: ジョナサン・コープ
イリーナ: タマラ・ロッホ
オリガ: ニコラ・トラナ
二人の将校: ウィリアム・トレヴィット、マイケル・ナン
アンドレイ: エドワード・ワトソン
アンドレイの妻: ベリンダ・ハットレー
(ピアノ演奏: フィリップ・ギャモン)



イギリスの”国民的バレリーナ”が自身のサヨナラ公演に選んだのは、四人の英国人振付家、プラス、フォーサイスによる五つの作品。二部構成で、一部は踊りの合間に舞台に巨大スクリーンが降りてきて、バレリーナ・バッセルの軌跡を映像で見せるという趣向。楽屋でステージ・メークの最後の仕上げをしながらバッセルが過去を振り返り・現在の心境を語る、インタビュー映像もフィーチャーされていた。

この公演、プロデュースを担当したのがバッセルのスクール時代からの友人で元同僚・Ballet Boyzの二人、かつ会場がサドラーズ・ウエルスということもあって、クラシック色は故意に薄められていた印象。オープニングの映像のバックに流れる曲がロックだったり、一部はかなりスピーディーな展開だった。私的にはもうちょっと長く踊って欲しかった・・・という恨みが多少残ったけれど、この種の公演、ダンスだけで見せようとするとそれはそれで難しいし、つくりとしては結構いい線いっていたと思う。プロデューサーは、お客さんはバレエ「スター」のダーシーを見に来ているのだということをちゃんと心得ていて、映像では、グラマラスなセレブ・ダンサーとしての顔と二児の母親としての顔(格好のロールモデル!)両面を盛り込み、もうほとんど有り得ないくらい、「完璧な女性」としてプレゼントされるダーシー。(バレリーナは夢を売る職業・・・といえるとしたら、彼女ほどこの点で成功した人もいないでしょう。)一方で、上演された作品はやや地味目とすらいえるラインナップながらダーシーの思い入れが感じられる選択、共演者にはごく少人数の親しいダンサーだけを集めて、全体にアットホームな雰囲気。

インタビューで印象に残ったコメントは、「舞台を離れたら何が一番恋しくなると思う?」との問いに、「もうこれまでみたいに注目の的ではなくなっちゃうことかな・・・ウフフ 正直でしょ?」と答えていたこと。(彼女らしい発言!まぁ確かに、いつもごく当然のように周囲の注目と賞賛を集めていたんですものね・・・)

あと、これは聞くまですっかり忘れていたけど、「自分のキャリアの出発点はサドラーズ・ウエルス劇場にあるので、ここで幕を引くことができて感慨深い」と語っていて・・・ そうでした、スクール卒業後、彼女はRBではなくて(都さんと同様)サドラーズ・ウエルス・ロイヤル・バレエ団(現在のバーミンガム・ロイヤル・バレエ)に入団したのよね。(その後マクミランに才能を見出され、RBの「パゴダの王子」の主役に抜擢されて若干20歳でRBのプリンシパルとなる。)

それから、気になる今後について、「引退宣言したのはスタントでも何でもなくて、本当に、バレエはやめる。戻ってくることは絶対ない」と言い切っていたこと。この夜の舞台を見る限りは、ちょっと信じられないなぁ・・・と疑いを払拭できなかったけれど。もし彼女の言葉に偽りがないのなら、ダンサー・アーティストとしての絶頂期に去っていく、ということになりますね・・・華やかなスター・オーラは健在だったし、肉体的衰えは全く感じさせない舞台でした。

最初の作品”On Classicism”の前に舞台上のスクリーンに映し出されるのはスクール生時代のバッセルとトレヴィット。20年以上前にロンドン郊外の町のローカル・イベント("Putney Fair”)で踊る二人のモノクロ映像がしばし映しだされた後、同じ二人のダンサーが舞台に立っている。ダーシーはちょっと変わったデザインのレオタード着用で体操みたいな動き、まずは軽くウォーミングアップ、というところ?続くイン・ザ・ミドル、もしくはTrystの前か後だったか?に、オペラハウスの舞台でシンデレラのヴァリエーションを踊るダーシーの映像が挿入される。(シンデレラは古典作品の中で彼女の好きなレパートリーだったということ。) Trystの前にはクリストファー・ウィールドンの振付作品(DGMとTryst)をリハーサルするシーンが映し出され、創作時の思い出を語るダーシーのコメントがオーバーラップする。続いて楽屋で化粧しながらウィールドンからの留守電メッセージに耳を傾けるダーシーのクローズアップ映像。

Trystはダーシーとジョナサン・コープのためにウィールドンが振付けたミニマリスティックな小品。ジョナサンを舞台で見るのは実に久しぶり・・・現役の時よりさらに痩せたように見えたけれど、動きにぎこちないところは全くなくて、サポートの達人ぶりは健在。一部の最後にようやくクラシック・チュチュでダーシーが登場。それだけで観客は感激してしまったんじゃないだろうか、この演目が終わると嵐のような拍手と歓声だった。シルヴィア3幕の結婚式のpddで、白地のチュチュにピンクのサテン生地が重ねられた衣装を着て屈託なく微笑むダーシーはハッピーオーラ全開。見ているこちらも思わず笑みがこぼれてしまう。(このシーンの冒頭、アミンタはシルヴィアを片脚だけ抱えて垂直にリフトしたまま歩行する。これを見ながら、「ボッレはこれを4日続けてやるのか 大変だなあ・・・」とちょっと同情していたんだけど、翌17日だけアミンタ役はコープが務めたと聞いた。)

この夜のメインディッシュはマクミランの「三人姉妹」。振付家が亡くなる前年にダーシーとイレク・ムハメドフにより初演された作品で、この時ダーシーは若干22歳。彼女にとってはおそらく特別思い出深い作品の一つなのでしょう・・・残念ながら私自身はこの作品におよそ興味をひかれないのですが、良い舞台だったと思います。(特筆すべきはイリーナ役のタマラ・ロッホ。実に魅惑的でした。)カーテンコールではダーシーは勿論、ジョナサン・コープにも盛大な拍手と歓声が送られていました。この二人が並んで万雷の拍手に応える姿は、ちょっと胸にせまるものがありました・・・

☆ ballet.coのギャラリーでこの公演のステージ写真を見られます:

http://www.ballet.co.uk/gallery/jr_bussell_farewell_swt_0507

【付記1】ballet.coで見た情報。ダーシーのロイヤル・バレエでの最後の舞台がBBC2・TVで中継放送されるようです。

6月8日のロイヤルのミックス・ビルでダーシーはマクミランの「大地の歌」を踊る予定になっていますが、この日、BBC2で夜9時からダーシーの特番を放送、後半はオペラハウスから舞台をライヴ中継!詳細は未発表のようですが、これはバレエ・ファン必見ですねー。

【付記2】これもballet.coのリンクで見たのですが、ジョナサン・コープがlondondance.comというサイトで、ダーシーのサドラーズ公演と、ロイヤルの「白鳥の湖」、「トリプル・ビル」について語っています。(ダーシーの公演初日の5/15は昼はロイヤルでローレン・カスバートソンとルパート・ペンファーザーの白鳥デビュー公演があり、昼夜掛け持ちで大変だったのですね。ご苦労様でした・・・)

http://www.londondance.com/content.asp?CategoryID=2569
2007-05-20 10:27 | ロイヤル・バレエ | Comment(10)
Comment
Naoko様、ダーシーの公演の詳細レポ、ありがとうございました!

彼女が好きな演目という「シンデレラ」全幕ロイヤルの日本公演がわたくしがダーシーを見た最後でしょうか。
あどけない笑顔、華やかで自信にあふれた明るい雰囲気、時として驚くほどダイナミックな軌跡を描く長い手脚が魅惑的な彼女からこんなに早い引退は予想だにしていませんでした。
勿体無い!

ボッレとコープが大活躍ですね。この2人とダーシーの並びは見栄えしそう・・・。
コープの踊り、また観たいです・・・。
ボッレは8月のフェリの引退公演でお目にかかれますが・・・。
(彼は何気に、引退する偉大な女性ダンサーのサポート役として大活躍ですね)

白地にピンクのサテンチュチュ・・・あぁ、ダーシーだわ・・・。
華麗なるイングリッシュローズのイメージそのままですよね。
来年からロイヤルのカレンダーはどのようになるのでしょうか。
と今から心配したりして(^^;)

「三人姉妹」
ヴェルシーニンイメージのコープがクルイギンですか。
(またしても観てみたい・・)
タマラはこういう物語を演じるのが上手いですよね。あの大きな瞳で多くを語りながら・・)去年のバレフェスのガラであのウルレザーガを良い!と思わせる素晴らしいタマラの「三人姉妹」を思い出しました。

ダーシー公演、ではありますが、コープの活躍ぶりが伺えて嬉しかったですv(インタビューのリンクもありがとうございました!)




maria 2007/05/20(日) 23:18:27) 編集


maria様

本当に、引退しちゃうなんて今でも信じられないです・・・。

>>ヴェルシーニンイメージのコープがクルイギンですか。

多分ジョナサンはクルイギン初挑戦だったと思うのですが・・・なんというか、彼はまだ見た目かっこいいからあんまり説得力なかったですね。ダウエルが演じた時は、マーシャよりかなり年上で冴えない、野暮ったい田舎教師という雰囲気がよく出ていましたが、ジョナサンじゃ、「なんでこのダンナじゃ駄目なの?」と突っ込みたくなっちゃうので(笑)。まあ特別公演ならではのスペシャルなキャストだったので(マーシャは両手に花!)、「現実味」はこの際おいといて・・・ってことだったのでしょう。

>>タマラはこういう物語を演じるのが上手いですよね。あの大きな瞳で多くを語りながら・・)去年のバレフェスのガラであのウルレザーガを良い!と思わせる素晴らしいタマラの「三人姉妹」を思い出しました。

ウルレザーガを良いと思わせたんですか?それはそれは・・・タマラの手腕ですね(笑)。彼女はイリーナがすごく良く似合っていましたよ。コケティッシュな魅力で、彼女を巡って将校二人が決闘に至る・・・という設定に全く無理がありませんでした。
Naoko S 2007/05/21(月) 06:36:24) 編集

ballet.coでコメントを読んで写真を眺めていましたが、やっぱりNokoさんの生レポをいちばん心待ちにしてました。ありがとうございます。ガラの興奮が伝わってきました。ジョナサン目当ての観客も多かったようですが、私も彼の舞台復帰のほうが実は気になってました。先日、ロンドンで偶然お会いしたんですよ。「もう、こうして朝のクラスに通ってるよ」って嬉しそうに話してました。それにしてもジョナサンのクルィギンはカッコよすぎます。あれじゃ、マーシャがヴェルシーニンに恋できません。「キャラクター・アーティスト役はやらない」と宣言してたのでびっくりでした。インタビューにもある通り、ダーシーからのお誘いがよほど嬉しかったのでしょう。やっぱり彼もまだ踊っていたいのだと思います。だから今後も少しずつ舞台に立ってくれることを期待しちゃいます。Trystはジョナサンが踊りやすいように振りを変えたのか、それともオリジナルのままなのかちょっと気になりました。あと、タマラのイリーナは見たい役のひとつですね。それにエドワードもいい味出してますね。いずれも写真だけの感想ですが。

ダーシーは数年後にまたダンサーとして踊ってくれるような気がします。注目を浴びていたい人ですからきっとそのうちに「私、復帰するわ」って言い出しそうじゃないですか。
ミッツィカスパー 2007/05/22(火) 00:18:42) 編集

素晴らしいレポありがとうございました!やはり新聞の批評よりも、Naokoさんのレポのほうが実感として感じられますね。

私も一昨年の来日公演での、光り輝く姫オーラをまとったシンデレラと、生命力そして絶望を感じさせた鮮烈なマノンが、いつまでも脳裏に残っています。絶頂でステージを降りてしまうとは、なんということなのでしょう。
ジョナサンのクルイギンにも驚きました。
二人とも、いつかまた部隊に戻ってきて欲しいと切に願います。

拙ブログからこの記事をリンクさせていただきました。
naomi 2007/05/22(火) 02:41:31) 編集


ミッツイカスパーさん こんにちは~

>>ジョナサン目当ての観客も多かったようですが、私も彼の舞台復帰のほうが実は気になってました。

私の行った2日目は、最後のカーテンコールでジョナサンへの拍手と歓声は主役だったボッレによりも凄かったです。「三人姉妹」の時、普通はここで笑わないだろう・・・という場面で結構笑い声が聞こえたりして、オペラハウスの客層とは微妙に違うのかな、有名人バッセルを見に来た人が圧倒的に多いんだろうか・・・なんて思ってたんですが、あのジョナサンへの歓声を聞いたら、やはりコアなバレエファンも沢山いるのね・・・と、印象があらたまったりして。

>>ダーシーは数年後にまたダンサーとして踊ってくれるような気がします。注目を浴びていたい人ですからきっとそのうちに「私、復帰するわ」って言い出しそうじゃないですか。

うーん微妙ですよね。ダーシーは今や小さなお子さん二人のお母さんでもあるし、子育てに優先順位を置きたいというのが引退の大きな理由みたいですから、どうでしょうねー。でも、彼女のことはショービズ界が放って置かないだろうという気もするので、早晩また動きだすかもしれませんね。どっちかというとそちらの分野に活躍の場を見出されるかも・・・。


naomiさん こんにちは。私も、ダーシーは若い頃より最近の方がずっと良くなっていて、まさに今が絶頂の時・・・と思っていましたから、惜しいなあ・・・の一言です。本当に、ジョナサンともども、また「部隊」に戻ってきてくれるといいのですけどね・・・。

あ、先ほどballet.coを覗いたら、最終日のカーテンコールの時ダーシーは涙ぐんでいた・・・とレポがありました。6月8日のオペラハウスでは、どうなることでしょう・・・
Naoko S 2007/05/22(火) 07:01:12) 編集

ようやく私も感想をまとめたところです。17日のアミンタはコープだったんですか・・・! それも観たかったな・・・。今回、とにかく時差ボケがひどくて眠気と戦いながらの鑑賞になってしまったのが本当に悔やまれます・・・(-_-;)

18日、ダーシーは涙ぐんでいたのですね。心配していたよりも客席は近かったけれど(L列)、やっぱりもうちょっと近くで観たかったです~。
はなはな 2007/05/23(水) 00:37:15) 編集


はなはなさん、お疲れ様でした 無事公演をご覧になれてよかったです~。17日のボッレはイン・ザ・ミドルのソロ部分も省いて踊っていたらしいので、この日はちょっと調子が悪かったのかも。はなはなさんのご覧になった最終日の盛り上がりようはさぞ凄かったでしょうね・・・!レポ、楽しみにしております。
Naoko S 2007/05/23(水) 07:58:25) 編集

Naokoさん
こんにちは~。ボッレ・ファンのamicaです。楽しいレポをありがとうございます。16日はご一緒していたんですね~。あの日とっても良かったです。ダーシー素晴らしかった。

17日にロベルトがシルヴィア踊らなかったなんて!危ないところでした。ロンドンまで行って別の人が出てきたら悲しいですもの(コープ様ならそれはそれで見たいですけれど)。

ダーシーの英語部分、そんなこと言っていたんだ!教えてくださってありがとうございました。
amica 2007/05/24(木) 00:08:47) 編集

Naokoさん、こんにちは。詳しいレポートをありがとうございます!

素敵な引退公演だったようですね~。これで引退とはとてもとてもとっても残念ですが、ご本人がお決めになったこと、いたしかたありません。 あぁ、しかし、今となっては、一昨年のロイヤル来日公演時の『シンデレラ』を見逃してしまったことを非常に後悔しています~。(『マノン』はしっかり観ました。) ダーシーが、私の「もっと観ておけばよかった」ダンサーリストに仲間入りとなってしまうなんて、予想していませんでした。。。 彼女のこれからの人生も素晴らしいものとなるよう心から願っております。

それにしても、一晩で5作品を連日とは、凄まじい体力っす。


ところで、モスクワでのブノワ賞にて、イレール氏に特別賞が授与されたそうですね!
おめでとうございます☆
mizuko 2007/05/24(木) 00:38:40) 編集


amicaさん こんにちは。イタリアから(ですよね?)わざわざ駈けつけられた甲斐があったようで、何よりでしたねー。(16日ご一緒していたとは!17日は、ほんとに危なかったですね~。)ヨイショでもなんでもなくて(笑)、今回の特別公演は、ボッレなしでは実現しなかったでしょうね。キャリアの後半に良いパートナーに巡り合えて、ダーシーはなんて幸運だったことか・・・と、つくづく感じましたよ~。


mizukoさん こんにちは

>>ダーシーが、私の「もっと観ておけばよかった」ダンサーリストに仲間入りとなってしまうなんて、予想していませんでした。。。 

これ、私も同感かもです。私にとっては最初のお子さんが生まれてマタニティ・リーブから戻ってきてからのダーシーは、それ以前とは確実に違うダンサーなんですよ。

>>それにしても、一晩で5作品を連日とは、凄まじい体力っす。

引退する人とは思えませんよね!

>>ところで、モスクワでのブノワ賞にて、イレール氏に特別賞が授与されたそうですね!

え~~っ そうなんですか??昨夜ダンソマニのリンクからブノワ賞ガラ公演の写真を見ていたらイレールがスーツ姿で登場していて、「きゃっ」と喜んでいたんですが、賞を受けられていたとは・・・!教えてくださって有難うございます♪(「さすらう~」も予定通り披露されたみたいですね。ルグリとの2ショット写真がありました~)
Naoko S 2007/05/24(木) 07:33:06) 編集

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