ショスタコーヴィチ・オン・ステージ 『ミックス・ビル』
7月25、27日の2日間ロンドン・コロシアムにて開催。『レニ・シン』以外の二演目の感想です。
『ヤング・レディ&フーリガン』(振付 コンスタンチン・ボヤルスキー 1962/七場からなる振付小品)
The Young Lady: Svetlana Ivanova
The Hooligan: Igor Zelensky
A Guide: Sergey Popov
The Guide's Girlfriend: Tatyana Tkachenko

古典的なボーイ・ミーツ・ガールもの。ただし両者の間に階級差があったことでハッピーエンドとはならず・・・。革命後の混乱期、ある街のボーイ・ギャングの一人(ゼレンスキー)がおしとやかな女性教師(イワノワ)に恋して、度重なる拒絶にめげず果敢にアタック。彼女も徐々に心を開いていくが、最後、フーリガンは仲間から彼女を守ろうとして裏切り者として殺されてしまう。

こう書くと、何だか暗そう・・・と思われるかもしれないが、さにあらず。話の筋は単純すぎるほど単純で、全体のトーンも脳天気な昔の青春ドラマ風。フーリガンが死ぬ場面も、最終的に彼女の愛を勝ち得て、喜びの中で息絶える・・・という設定になっている。音楽はショスタコーヴィチの舞台・映画音楽からの寄せ集め。パドドゥのシーンには耳慣れたキャッチーなメロディーの曲(おそらく映画音楽Gadflyから)が使われていてとっつき易い。

で、この作品で見るべきものは、何と言ってもゼレンスキー!労働者風のカジュアルなブルーグレーのシャツにパンツ、キャップを被ったゼレは表情も動きもびっくりするほど若々しくチャーミングで、ストリートキッドの役がぴったり。彼女にアタックをかける時の、強引さとナイーヴさが入り混じった表情が男の子っぽさ全開で、可愛いったらない。私は日頃ゼレのことを「バレエ界で一、二を争うスムーズ・オペレーター」と呼んでるのですが、跳んでも回っても力みがまるでない。レイドバックしているようでごく自然に、端正でダイナミックなパをさらりと決める卓越した技術は依然健在。そして動作の一つ一つが実に絵になる美しさ。歳を重ねてどんどん魅力をましているダンサーだとつくづく感じ入った。ここ数年毎度のことながら、今回も彼の舞台人としてのスケールの大きさに惚れ惚れ、ただただ見とれておりました。

レディ役のイワノワは比較的小柄ながら細身で長~い手足の持ち主、ごく自然にハイパー・エクステンションしてしまう・・・という今時のマリインスキーに多いタイプで、ミニ・ザハロワ風。ボーイ・ギャングの兄貴分的存在でフーリガンを刺すガイド役を踊ったスーパー・スリムなセルゲイ・ポポフはかなり個性的なダンサー。見た目は耽美系(どことなく80年代のヴィジュアル系ロックバンドにいたような雰囲気)なんだけれど、いかんせんステージプレゼンスが軽量級で印象薄し。エキゾチックな容姿を買われてかトカチェンコがガイドの情婦の役で登場したけれど、セクシーなコルセット姿でしなをつくるだけでほとんど踊りの見せ場がなくて勿体無かった。

『ベッドバグ』(振付 レオニード・ヤコブソン 1962/一幕のコミック・バレエ)
Mayakovsky: Nikolay Naumov
Zoya: Ekaterina Osmolkina
Prisypkin: Andrey Ivanov
Elzevira Renaissance: Yana Selina
Renaissance's Mum: Elena Bazhenova
Renaissance's Dad: Grigory Popov

もとネタは詩人ウラジーミル・マヤコフスキーの風刺劇で、そのせいか純粋なダンス作品というよりはボードビルとかスラップスティック・コメディを思わせる作り。3つの中で見る人の好き嫌いが最もはっきり分かれる作品だと思うのだけど、私はダメでした・・・。蓄音機から流れてきそうなノスタルジックなロシア風シャンソン(?)が使われていたり、キッチュな衣装といい、相当時代を感じさせる。客席のシニアの観客からは愉快そうな笑い声がさかんにもれていましたが・・・(ちなみにイギリス人が見ると背景のポップなイラストはモンティ・パイソン風らしいのだけど。) 

実はこのバレエ版の台本をさがしたんだけれど見つからず(プログラムには出ていない!原作とはかなり変えてあるようだった)、話の筋が頭に入っていない状態で鑑賞したため、かなり退屈してしまった。ダンサーは皆さん大熱演していましたが・・・。主役プリシプキンを踊ったイワノフは現在このバレエ団を代表するキャラクター・ダンサー。素晴らしい身体能力とお得意の百面相を駆使して、圧倒的な存在感。彼がただならぬ舞台人であることを再認識。(彼が初演した新作の『外套』を是非見てみたいものです!)プリシキンの花嫁役は<猫科>のヤナ・セリーナ、コケティッシュな魅力は相変わらずだけど、パペットのような動きばかりで勿体無い。ナタリヤ・マカロワが原版で初演したという、おつむは弱そうだけど無私の少女・ゾーヤ役はエカテリーナ・オスモルキナ。スクールメイツ風のいたいけなミニスカート姿がなかなかチャーミングだけれど、長い脚を見せ付けながらせわしない・機械的な動きを繰り返すばかりでインパクトに欠ける。仕切り役の詩人その人・マヤコフスキーを演じたのはあまり見慣れない(でも相当ベテラン風?)、ニコライ・ナウモフというダンサー。
2006-07-30 21:28 | マリインスキー・バレエ | Comment(3)
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英サイトballet.coでこの公演の写真が見られます:

http://www.ballet.co.uk/gallery/jr_kirov_triple_coliseum_0706
Naoko S 2006/07/31(月) 06:40:17) 編集

Naokoさん、こんにちは!わくわくしながら文章を拝読しました。臨場感があって、すばらしい描写です。ありがとうございます!アンドレイ・イワノフは、わたしもStペテルブルクで放蕩息子を観て、感激したんです、その迫力に。街中でも見かけたんですが、舞台で感じるほど小柄でもなく、すらりとした青年でした。そっかー、ポポフが「耽美系」というのも言い得て妙。美男子なんですけどねー(だからR&Jのパリスは似合ってた)、脚と、存在感がイマイチ…。そしてそして!今ballet.coの写真を見てきたのですが、ロパートキナとコルプの麗しい写真が。。。ウリアナ嬢の上腕にかけたコルプの手に、ウリアナ嬢がそっと手を添えていますね。とても信頼と満足のうかがえる、すばらしい一瞬の写真です。ところで、KNgが、最近ballet.coでNaokoさんの名前を見かけないけど、元気かしら、と言ってました。ロンドンはバレエで暑い夏だし、ブログを始めてお忙しいようです、と話しておきました。
aya 2006/07/31(月) 16:55:00) 編集

ayaさん こんばんは 反応して下さってありがとう(嬉しいです~)。イワノフが放蕩息子をレパートリーにしているとは知りませんでした。彼は本当に、現在のマリインスキー・バレエ団にとって重要なダンサーですよね。劇場改装のせいもあってか最近ダンサーの流出が続いていますが、今回のロンドン公演を見ながら、今退団されたらヴァジエフが一番困るダンサーは彼じゃないかなあ・・・なんて思ったりしました。

ロパートキナとコルプの写真、いい感じですよね。この二人の舞台が今回の公演で一番印象に残っています。黄金時代も含めてフェスティバルの余韻をまだ引き摺っているので早く感想をアップしたいのですが、何せ今晩ボリショイが開幕してしまいましたので・・・なかなか時間がとれません。前のポストでayaさんに頂いていたご質問の件も是非お話したいんですが・・・後日アップしたいと思っていますので、またお付き合いくださいませ。(その後英各紙の評お読みになりましたか?『黄金時代』は相当手厳しくやっつけられてますねえ。)

Kevinの件恐縮です。ちょっと前にメールでこちらの状況を説明していたところです。彼は今週末ロンドンに飛んでくるようです。
Naoko S 2006/08/01(火) 08:27:43) 編集

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