パリ・オペラ座バレエ 『モーリス・ベジャール』 / POB in “Maurice Béjart “
6ヶ月ぶりのイレールの舞台復帰!

ということで、とりあえず彼の「中国人」初日を見るべく行ってきました。現在バスティーユとガルニエではベジャール・プロと椿姫を同時上演中。両プログラムの日にちがかぶることが多いのでどちらかを選択しなければならない・・・というジレンマに悩んでいるバレエファンは少なくないのでは?私は、といえばベジャール大好き・ノイマイヤー??なもので、今回は迷わずベジャール・プロだけに専念。6月25日と26日の2回見てきました。(その前に、24日の Danseurs Choregraph公演も見たのですが、これは後ほど稿をあらためて・・・)

キャスト:

6月25日マチネ
『中国の不思議な役人』 Le Mandarin Merveilleux
中国の役人: ローラン・イレール
ギャング団のボス: ヤン・ブリダール
手下の娘: マロリー・ゴディオン
ジークフリート: ヴァンサン・コルディエ
若い男: ジスレーヌ・ライカート

『扉とため息のためのヴァリエーション』 Variations pour une porte et un soupir
ヤン・ブリダール、ベアトリス・マテル、カデール・ベラルビ、カール・パケット、アメリー・ラムルー、アレッシオ・カルボネ、ウィルフリード・ロモリ

『ボレロ』 Boléro
メロディー: ニコラ・ル・リッシュ
リズム: カール・パケット、ステファン・ブイヨン

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6月26日ソワレ
『中国の不思議な役人』 Le Mandarin Merveilleux
中国の役人: カデール・ベラルビ
ギャング団のボス: ウィルフリード・ロモリ
手下の娘: アレッシオ・カルボネ
ジークフリート: グレゴリー・ドミニアック
若い男: ジュリアン・マティス

『扉とため息のためのヴァリエーション』 Variations pour une porte et un soupir
ウィルフリード・ロモリ、カール・パケット、キム・ヨンゴル、ジェレミー・ベランガール、ジャン=フィリップ・デュリ、クリステル・グラニエ、ステファニー・ロンベール

『ボレロ』 Boléro
メロディー: マリ=アニエス・ジロ
リズム: カール・パケット、ステファン・ブイヨン
まずはマンダリン。前回、2003年のパリオペ初演時に見た時の感想は・・・作品の背景等何も知らず見たせいもあり、あまり楽しめずに終わった。ただビジュアル的に印象に残ったのは、「劇画チックで純粋なダンス作品というよりMTV—ロックのビデオクリップを見ているよう」だったこと。イレール扮する中国の役人は、何度殺されても蘇る・ターミネターのような役で、動きも表情も画一的でアンドロイドのようだったのが面白くもあり物足りなくもあり・・・ロモリのドスのきいた演技と、アレッシオのゴス・メーク&ごっついドラッグ・クイーンぶりに圧倒されたことぐらいしか憶えていない。(前回・2003年5月のベジャール・プロの感想はここにあります→http://ballettalk.invisionzone.com/index.php?showtopic=11347)

で、今回再見してそれなりに面白さは感じたけど、正直言ってベジャール作品の中では特別好きとは言えないかな。もともとは「グロテスクなパントマイム」と題された物語にバルトークが曲をつけた作品ということで、演劇性が全面に押し出されている。個性派ぞろいのパリオペのダンサー達が演じるからこそ見応えはあるものの、いかんせんダンス作品としては酔わせてくれない。プログラム解説によると、振付家はこのバレエに30年代の銀幕作品へのオマージュをこめたということで、たとえば、「娘」役にはフリッツ・ラングのメトロポリスに登場するエロティックな女ロボットのイメージが投影されているとか。ふむふむ・・・ 独特の退廃的なムードといかがわしさは、この手の舞台が好きなダンスファンには堪らないのでしょうけれどねえ・・・(退廃といってもベジャールだから、暗くはならない・・・ポップな感じすらあるんだけれど)。

イレールの「中国人」。実に6ヶ月ぶりに舞台に立つ我が殿を前に冷静な鑑賞眼を持つことは土台不可能、目が曇りきっていたと思うんだけど、それにしても、ちょっと違うんでは??という印象。気のせいかもしれないけど、ちょっと彼が舞台から浮いて見える・・・ シャープな動きは相変わらず(彼が動くたびにシャッ!シャッ!と音が出そうなほど鋭い動き)、加えて凄まじい集中力・・・何をやってもすべてに過剰気味なイレール節は健在だったものの、周囲との絡みや調和はどうか?というと、うーん・・・。「先生顔」してるとは思わなかったけれど、どうもご立派すぎる風情が感じられたのですよ そこはかとなく・・・ 願わくば、やはりロモリとの組み合わせで見たかった・・・ヤン・ブリは彼ならではの味を出していたとは思うけど、いかんせん迫力に欠ける。ギャングの親玉っていうより、せいぜい稼ぎそこそこのポン引き?(失礼!) どうも私の目には彼は万事軽やかすぎる。イレールとロモリが同じ舞台に立つだけで生まれる、あのスリリングなドラマを見たかったなあ・・・。イレールとマロリー@娘とのケミストリーも弱かったように見えたし、やっぱり組み合わせって大事だとつくづく感じた。

かたやベラルビ。この人の場合、私の目にはなぜかいつもダンサーというよりはまず役者、と見えてしまうのだけどなかなかよかった。イレールより小柄なせいもあるかもしれないけれど、登場直後は動きが小さくてちょっと女性的に見える。後半にかけてドラマ性を盛り上げていく表現力は秀逸(この点、イレールはやや一本調子)。役人に与えられた振付は、太極拳のような、ゆったりと型にはまった動きと唐突な機械人形のような動きの繰り返しが多い。ポーズを決める時の形の美しさではイレールはさすが、魅せてくれました。アンドロイド的な役なので表現は抑制されていて「目力」がものを言う・・・この点、二人のシニア・エトワールは役に不足なし・どんぴしゃハマっているのですが、ちと問題(?)も。二人とも美しすぎるせいか、娘とコトをし遂げるまでは死に切れず幾度も蘇る役人の不気味さ・執心を表現できていたかどうか・・・グロさはほとんど無くて、あくまでも綺麗な舞台でしたね。(しかしまあ、この役に美貌のシニア・エトワール二人をキャストできるパリオペは<平行して椿姫を上演しながら>、つくづく贅沢なカンパニーだと思います・・・) 娘役ではマロリーが予想していたほど女性的でなくてむしろ男っぽく見えたのが意外。そしてアレッシオはこの夜テンションが高くて、迫真の舞台を見せてくれました。彼は着実にこの役を自分のものにしつつある・・・と頼もしさを感じた。

続いて今回あらたにパリオペのレパートリーに入った『扉とため息のためのヴァリエーション』。初見。見ながら欠伸が出そうになったり、色々とツッコミ入れたくなる点も含めて面白い「経験」をさせてもらいました。見終わった後もつい思い出してはあれこれ考えさせられたり、今回見た3つの作品の中で一番印象に残った。とてつもなく面白くも・つまらなくもなり得る、ある種典型的なベジャール作品。

舞台上には7人のダンサー。舞台中央に置かれた箱の中から順にくじを引いて自分の「番号」が決まる。『扉とため息』のテーマで用意された16のヴァリエーションがあり、どのヴァリエーションをどの<番号>が踊るかは毎回固定していて、舞台背景に掲示されているから観客にもわかる仕組み。

Sommeil - Balancement - Chant l - Eveil - Chant II - Etirement - Geste - Comptine - Fievre - Chant III - Gymnastique - Braiements - Respirations - Ronflements - Chant IV - Mort

ダンサーたちは、時にソロで、デュオで、トリオで、または全員で・・・即興で踊る。(尚、↑のキャストリストは各日にこの演目を踊ったダンサー達を「番号」順で並べました。25日なら、「1番」がヤン・ブリ、「2番」がマテル・・・) ピエール・アンリによる「音楽」は、扉がきしむような音、息を吐いたり・囁くような音、その他雑多な電子音・・・音楽というよりは効果音、もしくは「ノイズ」。かなりの大音響なので、この種の音が苦手な人には35分は長く感じられるかも・・・。

今回選ばれたダンサーたちは(大体)コンテンポラリーで定評のある、または振付心のある人たち。(例えばあまり知名度は高くないけれど、コール・ドのベアトリス・マテルとジャン=フィリップ・デュリはDanseur Choregraph公演で自作自演している。)それでも、音楽というよりノイズに近い音に合わせるという制約がある中でのインプロヴァイゼーションは相当難しいのか、突出して美しかったり・面白かったり・ヘンだったり、というダンスがなくてやや類型的に見え、もうちょっとイマジネーションって物がないのか~と文句言いたくなる場面も少なからずあった。

で、もっぱらダンサーたちの見比べ・「出来」を比較することに興味が集中。即興だからこそ、おのずとダンサーの個性と技量が露わになって面白い。一番上手いなあ・プロだなあと感心させられたのはロンベール。全てのヴァリエーションのテーマと音がしっかり頭にインプットされていて、そのためのムーヴメントも完璧に予習ずみ、という感じ。動きもメリハリがあってデキる女、という感じ(ちょっと出来すぎの気も・・・)。ロモリもさすがにソツがない。この二人は26日にGeste(ジェスチャー)で一緒に踊ったのだけれど、ちゃんと何度もリハしてるんじゃないか?と思うぐらいぴったりと二人のセンスと動きが合っていた。拍手!一方、意外にも一番面白くなかったのがベラルビ。のらりくらりと歩き回ったり椅子に座って足をブラブラさせたり、どうも動きが省エネ気味。ジェレミーも振付を手がけているにしては、あんまり面白くなかったなあ。'Chant III'(歌・3)ではスタンド・バイ・ミー歌っちゃうし(結構お上手でした)。初日か二日目も歌を披露したダンサーがいたらしいけれど、ダンサーなのだから身体で表現してほしいなぁ・・・と思ってしまう。あと、25日の'Gymnastics'(体操)はこの日最も退屈なヴァリエーションで、見ながら欠伸が出そうだったんだけど、終わったらしっかりブーイングが出ていた。(ちなみに26日はParterre前列ブロックで聞き取れるブーイングはなし・・・常連バレエファンが少なかったのか?)ある意味異色だったのはカール。他のダンサーはほぼコンテンポラリーの動き一辺倒なのだけど、カールだけはかなりクラシックが入っている。「綺麗」に型を決めよう、と心に決めているかのようで、カッコつけてるとも、サービス精神旺盛ともいえる。25日にカールとヤンブリが踊った’Braiements'(わめく)は、二人の「剛柔」の対比が面白かった。ヤンブリがウォーーーッと叫びながら、アグレッシヴにカールに向かっていくんだけど、身のこなしは柔らかくて彼独特の脱力系の動きを見せる。一方のカールはヤンブリの攻撃を、ピシッピシッと硬質の動きで切り返す。

類型的という点では、全員で踊る最後のヴァリエーション、'mort'(死)に特にそれを強く感じた。音が不快度の高いやつというせいもあろうが、のたうち回ったり、椅子を放り投げたり、ほぼ例外なく全員が死を苦しみ・おぞましいものとして表現していたのに疑問符が。(舞台最前線で突っ伏して倒れ、オケピットに落ちそうだったヤンブリ。屍が累々と折り重なるように舞台中央で山になって「死んで」いたダンサー数人。あと、唖然としたのはアレッシオ。南無妙法蓮華経・・・って唱えてたんですけど・・・ううむ。)「死」のイメージってそんなに一面的なもの?本当に、そう??

・・・って、こうして感想を書き連ねると否定的なことばかりだけど、決してつまらない作品ではない。与えられた振付をただこなすのではない、即興のダンスを見られる機会なんてそうそうない。少々大袈裟にいうなら、観客は毎回創作の場に居合わせているスリリングさを味わえる。ダンサーにとっては、想像力と感性と身体能力をフルに発揮することを強いられる上、毎回批評の対象として自分を曝け出してるようなものだから、相当キツい作品。(実際、楽しんで踊っている人は皆無だったように見えた・・・)今週末またバスティーユに戻って、同じダンサーが回数を重ねてどう変化しているかを見るのが楽しみ!

<ボレロに続く>
2006-07-10 08:00 | パリ・オペラ座バレエ | Comment(0)
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