ロイヤル・バレエ 「ジュエルス」 (11/30)
Choreography: George Balanchine

Music
- Gabriel Faure (Pelleas et Melisande, Shylock)
- Igor Stravinsky (Capriccio for Piano and Orchestra)
- Pyotr Il'yich Tchaikovsky (Symphony No. 3 in D Major, movements Nos 2/3/4/5)

Set Designs: Jean-Marc Puissant
Costume Designs: Barbara Karinska
Costume Designs Consultant: Holly Hynes
Lighting: Jennifer Tipton
Staging: Karin von Aroldingen, Elyse Borne, Maria Calegari, Patricia Neary
Conductor: Valeriy Ovsyanikov
The Orchestra of the Royal Opera House
Piano Solo for Rubies: Robert Clark

Premiere: 13/04/1967, New York City Ballet, New York State Theater
RB Premiere: 23/11/2007
The 4th performance at the ROH (Emeralds and Diamonds)
The 16th performance at the ROH (Rubies)

<キャスト>

"エメラルド": 第一のカップル ロッホ&ワトソン、第二のカップル ベンジャミン&プトロフ、パドトロワ モレーラ、チャップマン、マックレー

"ルビー": ラム&アコスタ、ヤノウスキー

"ダイヤモンド": コジョカル&ペンファーザー、モレーラ、チャップマン、マクミーカン、小林、フリストフ、佐々木、蔵、ホワイトヘッド


"Diamonds are a Girl's best friend!" (Marilyn Monroe, from "Gentlemen Prefer Blondes")

エメラルド、ルビー、ダイヤモンド・・・あなたはどれが一番お好き?

バランシンの"宝石"に関していえば、私自身はいつもエメラルドとダイヤモンドの間で心が揺れ動いてしまう。(実は、ルビーには一度も心惹かれたことがなくて・・・)

たとえばパリオペの"ジョワイヨ"では、エメラルドが抜群に素晴らしい。夢想的なフォーレの音楽にのせた、詩情豊かで最もロマンティックなパート。エメラルドにはロマンティック・バレエへの憧憬がこめられている・・・とはよく言われることだけど、懐古趣味的ではまったくない。私的にこのパートは古き良き時代のエレガンスに、現代的なスパイスがぴりっと利いているところが面白い。個性溢れるパリオペのダンサーたちが踊ると、このスパイスの利かせ方が絶妙で、作品が生き生きとする。

ダイヤモンドには、在りし日のロシアの帝室バレエへの、バランシンのダイレクトな賞賛と思慕が込められている。古典の粋と、チャイコフスキー独特の哀感にみちた音楽にぴったりくるのは、やはりマリインスキーのダンサーたち。フィナーレのバレエ賛歌のシーンで、<毎回間違いなく>私を恍惚とさせてくれるのは、プティパの伝統の継承者であるペテルブルグのダンサーたち。

さて、初演(&初見)のロイヤル版・ジュエルスでもっとも光り輝いていた宝石は・・・この夜は、ダイヤモンドでした。当然ながら、ロイヤルですから、パリオペともマリインスキーとも全く別物のバランシン。よく言えばおしとやかなお嬢さん風、悪くいうとやや大胆さとスパイスに欠けていたかな。ダイヤモンドが最も印象的だったのは、主役ペアのpddの出来に負う所が大きいです。

「エメラルド」で、舞台の上に音楽が見えたのは、リヤーン・ベンジャミンのソロ("シシリエンヌ")。ごくごくデリケートで微妙なニュアンスに富んだ、素敵なダンスだった。もう一人の女性ソリスト、タマラ・ロッホは、どうも私の目には踊り・表現ともに平板な印象。パートナーのワトソンとアイコンタクトを取らないところも気になった(これでは二人の間の物語が見えてこない・・・)。そのワトソンは、上体をそらす時ドラマチックにしすぎる、いつものあの癖は気になったけど、涙ぐましいまでの騎士ぶりでバレリーナに仕えていました。でも、何やら一人で踊ってる印象のロッホと噛み合ってなくて(可哀想・・・)。第二カップルの男性ソリストはもともと目立たない役だけれど、それにしてもイヴァン・プトロフは生彩を欠いていた(男性三人の中で最も端正なダンサーなんですけどねえ・・・残念)。スティーヴン・マックレーは、どう考えてもルビーのタイプでしょう。あれだと男性ソリストが一人だけだから、お鉢が回ってこなかったのか?次回は、ルビーの主役で見たい。

(衣装はNYCBのオリジナル・カリンスカのデザインを使っているので、基本的にはマリインスキーで見慣れたものに近い。ただ、女性達の着用しているヘッド・アクセサリーがやや違って見えたような・・・。ロイヤルは小柄なダンサーが多いのだけど、その割に、特にダイヤモンドで主役以外の女性アンサンブルがつけていたティアラ(?)はちょっと大きすぎるように見えた。)

「ルビー」の主役ペアは、サラ・ラムとカルロス・アコスタ。二人とも端正な踊りをするダンサーで、二人揃ってあまりに優等生的で、面白みとスリリングさに欠ける・・・。身体能力的には全く不足はありませんが、ブロードウェー風のエネルギーやセクシーさとは無縁。もう一人のソリスト、ゼナイダ・ヤノウスキーも、あまり役に合っているとは思えなかった。俗に、"tall girl role"と言われるだけあって、背の高いダンサーがキャストされることが多い役だけれど、ゼナイダはこの種のダンスが似合うダンサーなのだろうか?どうも背が高いというだけで抜擢されたとしか思えない・・・彼女は体格も踊りもソリッドすぎて、いなせで洒落た感じがしないのが難点。(まぁ、私は「ルビー」の熱心な観客ではないので、誰で見ても心から"好き!"と思えたことはないんですが。ヴィシニョーワは、少なくとももっとスリリングだったなあ・・・)

「ダイヤモンド」は、なんといってもアリーナ・コジョカルとルパート・ペンファーザーのpdd。私がこれまでに見たことのあるダイヤモンドのバレリーナたち・・・ロパートキナ、パヴレンコ、ザハロワ、ルテステュ、ファレル(映像)・・・概して長身で細長く優雅なラインを持つダンサーたちで、やや非現実的で手の届かない存在。アリーナは、彼女たちとはまるで違っていて・・・恋の真っ只中にいて、見るもの・聴くもの全てが新しい・・・という表情の、血肉のかよった乙女でした。なにしろ、こんなにエモーショナルなダイヤモンドは見たことがなくて、驚嘆。

ダイヤモンドは、チャイコフスキーの第3交響曲に振付けられていますが、pddの踊られる第3楽章は"Andante elegiaco"、そう、エレジーなんですよね。エレジーといえば哀歌、ロシアの、しかもチャイコフスキーの哀歌ですから、それはもう・・・ どうしようもなくセンチメンタルで、救いようのないメランコリーに浸りきっている音楽なわけです。アリーナの作品解釈は、この音楽の提示する世界とは明確に相容れないものでした・・・それは確か。でも、なんだかそれもありなんじゃないか・・・と思わせる強さがあるんですよね 彼女には。パートナーを見つめる目線、手首の折り方・・・どれをとっても100%、アリーナのダイヤモンド。なんというか、春風に舞う恋する乙女なアリーナが、"これが私のダイヤモンドよ!"と高らかに宣言するのをただただ眩しい思いで見つめていたというか・・・天晴れでした。

パートナーのルパート・ペンファーザーが、これがまた、驚くほどよかった。彼は怪我で降板したボネッリの代役だったんだけれど、技術的なサポートが優れていただけでなく、アリーナの問いかけによく反応していて(多分ペアを組んだのは初めてだと思うけれど)、二人はとってもいい雰囲気でした。第4楽章・スケルツォでのソロは、ダンスも立ち居振る舞いも実に堂々と自信に満ちていて、"こんな貴方は見たことない!一体何が起きたの~~?"と、申し訳ないけど、心の中でパニクってしまったほど。(いや~ ほんとにびっくりした。ペンファーザー君、確実に一皮むけましたよ!)

最終楽章。ロイヤルのダンサーはラヴリーだけれど必ずしも様式美に忠実ではないので、私の見たい荘厳なポロネーズは見られなかったけれど、最後のシーンはやはりうるっときてしまった。全員のグラン・バットマンからピルエットの連続、舞台中央でパートナーに支えられアラベスクのまま静止する主役バレリーナ。後方にはずらりと並んだアンサンブル・・・バレエ賛歌・プティパ礼賛のこのフィナーレ、クラシック・バレエファンなら、心を動かされずにはいられません・・・。

☆ ballet.coのギャラリーで"Jewels"の舞台写真を見られます:

http://www.ballet.co.uk/gallery/jr_rb_jewels_roh_1107
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2007-12-03 08:33 | ロイヤル・バレエ | Comment(8)
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